音を上げる程優しくします。
道篤くんの言葉はこれっぽっちの嘘もなく。
どこまでも優しい指遣いなのに、どんどんと私を追い上げていく。
体の全てを舐め取られているような、唇が触れていない場所なんてもう思い当たらない私の体は既に私の物ではないようで。
挿し入れられた指が立てる音も、しゃぶるように舌を使い啜る音も、私の体を熱くする。
下肢から離れた道篤くんの顔を目で追うと、足の甲を優しく撫でられそのまま指が口の中へと含まれる。
舐る舌は指やその間を丹念に這い、その動きと私の中で壁を擦り続ける指の動きが違う錯覚を起こすようで、甘く掠れた声が咽奥から漏れた。
「んん…はぅ……あ、やぁ」
言葉はどれもただの喘ぎ声にしかならなくて、迫ってくる感覚に強張る腕を道篤くんに伸ばす。
足を離した手で握り返され、指がしっかりと絡まり合う。
「カナエさん、云って。どこが気持ちいい?」
そんなの全部に決まってる。
極まりかけているのにこのまま達きたくなくて首を振ると、道篤くんの顔が近付いてくる。
動き続ける指は強い締め付けを宥めるようにリズムを変え、その動きがどうなっているのかなんて分からない。
同時に花芽を弄られて、もう無理と思った瞬間指が逃げるように抜き取られた。
「……カナエさん、云って?」
ひくりと締め付けるもののなくなった中が波打つ。
内腿を撫でられ、唇を寄せられて夢中でそれに応える。
「……意地悪。お願い、きて。……して」
さわりと褒めるように腰骨あたりを撫でられて漏れそうになった息が詰まる。
熱い塊が一気に奥まで届いて、ぎりぎりだった昂りが弾けた。
「ぁああっ……はぅんっ」
強く収縮を繰り返す中に道篤くんを感じる。
ぴったりと重なる体が、酷く気持ちよくて泣けてくる。
「……っ、カナエさんの中、気持ちいい」
引き締まった腕に腰を抱き締められて、同じだと云いたくて何度も頷く。
目が合って言葉が出ない分笑って見せたら、動かずにいた道篤くんのものが大きさを増し角度を変えたのを感じた。
それが嬉しくて、背中を浮かせて私から唇を合わせる。
「……嬉しい」
目を細めて笑うと、ぐいと腕で体を支えた道篤くんが動き出す。
両手の指は絡み合ったままで、掛けられた重みと握られる強さに、道篤くんも感じているのだと思える。
中を探るような動きと、狙いを見つけた擦るような動きに翻弄されて声を抑えきれない。
体を転がされるように向きを変えられて、体が跳ねる度に何度もそこを突かれた。
「可愛い、カナエさん。……もっと、俺に夢中になって」
囁かれたのは頚の後ろを啄ばまれながらだった。
昼の顔も夜の顔も、どちらもこれ以上ないくらい気持ちに入り込んでいるのにこれ以上なんて。
ぐしゃぐしゃの思考でしようとした返事は、届いただろうか。
何度達しても、何度放っても、道篤くんは最後まで優しいまま激しくて。
もう離せないくらいに気持ちが伝わってきて、溶けあうように同じなんだと確認すら必要ない。
意識が飛ぶ間際に見た道篤くんの瞳で、それが伝わっている気がした。
「カナエさん、正月はどうするんですか?」
目を開けたのはまだ夜が明ける前。
道篤くんの腕に包まれていて、驚いて顔を上げたら柔らかい笑みが向けられていた。
寝るのが惜しくて寝顔を見てましたと云われて気恥ずかしさに俯いたら、くすくすと笑いながら額にキスされた。
「いつも通り。休んでも行く所もやる事もないしね」
「……親戚とかは?」
「いないもの。毎年正月は働いてる」
あっさりと云ったつもりだったのに、道篤くんは返事に困ってしまったようだった。
別にどうという事もない。
母親が死んで何年かは世話好きだった担任の奥さんが是非にと呼んでくれたけど、先生の転勤をきっかけに一人で過ごすようになった。
当たり前になってしまっているのだけれど、傍からどう見えているかは考えない事にしている。
……まあ、毎年一人だった訳でもないしね。云えないけど。
「そんな顔しないで。別に私は平気なんだから」
「 家族がいるのに、わざわざ離れている俺を軽蔑しますか?」
何だ、それ。
そんな発想は全くなかったので少し驚く。
ただ、私は両親が死ぬまでちゃんと幸せな家庭で育った。母だけになっても、働きながら注がれる愛情は人並み以上だったと思う。
両親がいるからって幸せとは限らない。それは、道篤くんを見ていて思った事だ。
「しないよ。ねえ、正月一緒にいられるならお節でも作ろうか?」
「……多分、今年はカナエさんの分まで持たされると思うので、作る事ないですよ」
軽い口調で聞いたら苦笑が返ってくる。
聞けば、お世話になったお爺さんのお友達の家で毎年これでもかと正月料理を食べさせられるらしい。
「一緒に行ってもいいんですけど、どうせなら二人で過ごしましょう」
「……って、私の事、話した?」
責めてない、責めてないよ。
どちらかと云うと、東京でそんな風に過ごせる家族がいる事にほっとして出た疑問。
なのに道篤くんは申し訳なさそうに顔を顰めていた。
「カナエさんと話せた次の日、どうしても休ませろと電話したら後から無理矢理聞き出されました。十年前の事も覚えられていて、散々冷やかされていますよ」
「うわ……」
それは恥ずかしい。何がって、私が。
頬が熱くなって片手でぱたぱたと仰ぐと、腰に巻きついていた腕に向かい合わせに姿勢を変えられた。
「カナエさんの仕事の負担にならないなら、初詣に行きましょうか。ご両親のお墓参りも連れて行ってくれると嬉しいです」
「ん。ありがとう」
「これからは独りにしませんってご挨拶しないと」
不意に云われた言葉に、涙腺が何よりも先に反応した。
まさか自分が泣くとは思っていなくて、見ている道篤くんよりも驚いている自分がいる。
そんな事、初めて云われたのかもしれない。
それだけじゃない。
家族はいてもきっと独りだと苦しんだ事がある道篤くんの言葉だからこそ、すとんと胸の中に落ちてきた。
「……その言葉、ツボだったみたい」
照れ隠しに笑うと、優しく体を引き寄せられた。
肩口に顔を埋めると、ゆっくりと背中を撫でられる。
「好きですよ、カナエさん」
何度も聞いた言葉が耳をくすぐる。
耳に心地いい音にすりと体を寄せると…なんか、当たるんですけど。
「 昨夜無理させたから、大人しくするように念じていたんですけど」
ぼそりと呟く道篤くんはバツが悪そうに明後日の方向を見ている。
念じたって、何。
「しよ。私もいっぱい欲しい」
「……また煽る」
おっと、一言余計だったか。
それでも、道篤くんの愛情を体で受け止めるのは癖になりそうなほど気持ちがいいのも事実で。
今度は私から気持ちよくさせて翻弄してみるのも悪くないかな、なんて。
「カナエさん、何考えてます」
「え?」
うわ、出た。また読まれたのか、顔を覗き込まれて目が泳いでしまった。
布団の中で両手両足に囲われるように下敷きにされて、降りてくる鼓動が心地いい。
眇められた視線だけはいただけませんが。
「俺はされるよりする方が好きなんです。大人しく喘いでて下さい」
「ええー」
「……今度、してもらいますから」
いかにも妥協するみたいな云い方に、思わず笑ってしまう。
もう黙りなさいと口を塞がれて、舌の動きを自分のそれで追った。
つい少し前まで上がっていた体温はすぐに戻ってくる。
冬の朝はまだ暗くて、空が白むまでにはまだまだ時間があるだろう。
絡まるように溶け合うように一つになってしまう程、私たちはいつまでもベッドの中で互いの存在を感じ合っていた。